ホ●温泉と噂されるブダペストのキラーイ温泉は本当に大丈夫なのか?

ハンガリー

「テルマエ・ロマエ」で有名になった通り、かつての古代ローマでは公衆浴場が存在し、入浴する習慣があったヨーロッパの人々。しかし現代になるとどこの国を見て回っても「ヨーロッパで温泉に入る」経験ができる場所は非常に限られている。安宿どころか中級のものですら、どこのホテルで泊まってもシャワーしか付いていないし、ヨーロッパに長期旅行中の日本人は風呂が恋しくなる瞬間というものがある。

しかしそんな温泉文化不毛のヨーロッパでも中欧のハンガリーだけは話が別だ。首都ブダペストには歴史のある温泉施設が数多く点在し、今の時代も沢山の市民が温泉に浸かり体を癒やしそれぞれの時間を過ごしている。ブダペストは「ドナウの真珠」とも呼ばれる中世の街並みを残した美しい都市。アジアの東の外れの人間から見ればまるでファンタジーの世界そのものに思えるが、我々が行こうとしているブダペストの温泉施設というのは、少しばかり勝手が違う。

それはブダペストの中心市街地、ドナウ川西岸の一角にある「キラーイ温泉」と呼ばれる場所だ。西暦1565年、当時ブダペストを支配していたオスマン・トルコ帝国の時代に建造された温泉という。かれこれ450年もの歴史があるという凄まじい年代物の施設なのだ。1565年って日本だとまだ戦国時代ですよ。ヨーロッパではつくづく「年季が入った」という表現をするにもスケールが全然違う。

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しかし我々がこのキラーイ温泉の存在を知ったのはそもそもこの本を読んでしまったからだ。あんまり具体的な事を言うと放送コードに引っかかるので簡潔に言う。そっち方面の方々が集まる事で有名らしい。ただでさえ異国の温泉というだけでも不安に駆られるが念には念を入れてトリップアドバイザーでキラーイ温泉の評判を確認する…

キラーイ温泉

機械翻訳も織り交ぜながら確認致しました。「Great Gay」だの「Disgusting」だのもう英語の段階でも滅茶苦茶そうなのが容易に想像できます。どうやらキラーイ温泉にまつわる噂はマジでガチらしいです。えー…どうしよう…(笑)入って嫌な思いして「キラーイ温泉なんか嫌いだ!」となる程度で帰るならまだしも何らかの肉体的影響を及ぼす羽目になったら今後の人生設計において色々と問題がある。

でもわざわざここまで来てビビって入らずに帰るなんてそれこそ一生の後悔だよね。でも出来れば綺麗な体で日本に帰りたい。だけど…だけど…

来ちゃったよ…もう後戻りはできないですね。場所はハンガリー国会議事堂からドナウ川を挟んだ向かい辺り、ちょこっと路地に入った所にある。夜に来ると付近は薄暗く、ふとした勢いでひったくりや何やらに狙われたりしないものかやや不安が残る。この建物も築450年らしいです。途方も無いですね。

受付のおばさんに1人2400フォリント(1100円くらい)を支払ってキラーイ温泉の中に入る。物価を考えるとちょっと高いけどまあしょうがない。日本人の考えている温泉施設とはかなり勝手が違う。番台にコーヒー牛乳が置いている訳でもマッサージ椅子が置いてあるだけでもない。くつろいでるジジババも居ないし、みんな客はどこに居るんだと思ったら、全員入浴中なんですね。

浴場や更衣室などがある部屋とは別にキラーイ温泉の歴史を紹介する展示コーナーみたいなスペースもある。伊達に450年やってる訳ではないという話か。銭湯というよりも博物館のようなノリだ。お化けでも出そうな程ひたすら静かである。ここまで見て、やっぱり観光客向けという感じはあまりしない。

細かい手順は忘れたが、受付のおばさんにお金と引き換えにもらえるのがこのリストバンド。中にICチップが埋め込まれているようで、これを持って階段で2階に上がって自動改札にリストバンドをかざして入る。部分的に近代的なシステムが入っていて意外にミスマッチである。

2階に上がるとまず手前にある脱衣場を通るのだが個室のキャビンが客グループごとに振り分けられる。床のタイルの市松模様がチカチカする。このへんのセンスはああ、ヨーロッパなんだな、と感じる。キャビンの鍵は確か後から係員のオッサンが掛けてくれるはず。

脱衣場で水着姿になったらそのまま階段を降りて浴場へ向かう。このアプローチもこれから銭湯に入るぞというノリよりも、未知なるファンタジーの世界に足を踏み入れる冒険者のノリに近い。この先何が待ち受けているか分からないのだ。あの漫画に書いていた通りにふんどし姿のクリーチャーどもに襲撃される恐れがないとも限らない。どうなってしまうのか…

しかし気になる浴場の中はさすがに写真撮影できないのでここまで。ソッチ方面の方々にあんまり変な期待をさせてしまうのもアレなので結論から言うが、キラーイ温泉では「何も起こらなかった」。というのも最近になって不純な目的での利用者を排除した結果、普通に健全(たぶん)な男女の客が利用するだけの、ごく普通の温泉施設に生まれ変わっていたのだった。前は曜日で男女別になっていたらしく、男性の日がとにかくヤバかったらしい。以前は水着ではなく褌一丁で入っていたとも。

キラーイ温泉には浴槽が4つあり、手前の部屋の小さめの浴槽は水温26度と最もぬるい。入浴客はみんな次の大浴場でくつろいでいて、中央の円形浴槽が36度、浴場の両隅に32度、40度の小さめの浴槽が配されている。他にも保温用のサウナ室があって、そこでも入浴客がくつろいでいる。しかし客を見るとカップルばかりなんですよねこれが。

せいぜい30分くらいしか風呂に入っていなかったが、客のくつろぎ方を観察していたらなかなか面白かった。客の男女グループはそれぞれ常連らしく、何やら複数人で交渉して、グループが入れ替わったりしながら1人を浴槽の中央に寝かせた状態で浮かせ、その周囲にグループが寄って身体をやさしくマッサージしたり髪を撫でたりするのである。これは男女関係ない。見ていてなんだかハラハラしそうな光景だ。それ以上変な展開にはならなかったが、幾分日本人が考えているものとは違うリラクゼーションの作法があるみたいだ。

ヨーロッパに向かった10月の夜は既に寒さが厳しく、これまでドイツやポーランドなど寒い国ばかりうろついていた後だったので、この日のブダペストは割と夜冷えないのが意外で風呂上がりの身体は暖かいまま宿に歩いて戻った。普通の観光客ならゲッレールト温泉とかセーチェニ温泉あたりに入りそうで、比べてキラーイ温泉はマニア向けに思われるが噂ほど酷い場所でもないし、オスマン・トルコ時代の歴史ある浴場に入れるというのは貴重な体験なので是非行って欲しいと思った。

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