2010年9月にペルー国内を10日間掛けて回っていたのだが、やはりマチュピチュ遺跡は外せない訳で、マチュピチュ観光の拠点都市であるインカ帝国の古都クスコに3日間滞在しながら市内や周辺地域を巡ったりしていた。
一度この地域に旅行したならば分かるだろうが、クスコからマチュピチュ遺跡までの移動が殊の外長く、途中の街から観光鉄道に乗らなければ遺跡の麓の町に行く事が出来ないのだが、クスコから直行で出ている鉄道便は皆無に等しいので、途中までは車をチャーターするなりツアー会社を通したりしなければならない。当方は全くの個人手配で、途中の地域に寄り道しながら、鉄道駅があるオリャンタイタンボという街まで車を半日チャーターして行く事にした。
で、せっかく足を確保したのだから、その途中にある「マラス塩田」という場所もついでに見ていこうという事で運転手に交渉して、クスコからマラスを経由してオリャンタイタンボ行きという事になった。車はクスコ市街を離れて郊外の貧民街をずんずん突っ切って行く。
南米の貧民街は郊外の山手の不安定な土地にびっしり連なっていて、このクスコでも少し街外れに出るとみすぼらしい掘っ立て小屋が続々と現れる。窓から顔を出したら通りがかったガキに中国人に間違われて「チーノ!チーノ!」と言われるのが常だ。日本から地球の裏側の住民にとって中国も日本もそう変わらない国らしい。
クスコ市街を出るとどんどん高度を上げつつ途中でチンチェーロという街を抜けてさらに進む事になる。この辺まで来ると高度4000メートル近くになって富士山頂以上の高山地帯な訳だが、延々と広がるのは農地。外に出て歩いて空気の薄さを体感しない限りは自覚症状はあまりない。
そのうち車窓から野生動物が沢山見られたりして自然のサファリパーク状態となる。ワイルドですねえ。
クスコから小一時間走るとマラス(Maras)という街に着く。取り立てて見る所もない小さな街だが、塩田とモライ遺跡という二つの見所が村の近くにあり、その際に立ち寄る事になるらしい。本当は塩田だけ見たかったのだが、運転手が勘違いして直接街まで送られてしまったので、若干遠回りになった。
マラスもまた貧しい地方の村といった感じで、村の中心アルマス広場の側でも古ぼけた家のブロック塀なんかに政治家の宣伝広告がペイントされている。2011年の大統領選挙を控えていたのもあるが、どうも村人が沢山集まって政治系の集会みたいなのを開いているらしく、何やら賑やかだった。
アルマス広場に面してちょっとした屋台料理店があり地元民やひょっこりやってきた観光客なんかが早めの昼飯を食っている。売店も兼ねていて飲み物やお菓子なども買える。あんまり他に店も無さそうなので飲み物を買っておく事にした。
ついでなのでトイレも済ます事にして、親切な村人にトイレの場所を教えてもらってそばの公衆便所を案内された。見た目はそこそこちゃんとしているのだが…
マラスの公衆便所には上水道が整備されていなかった。どうやら雨水を貯めたっぽいドラム缶から水を汲み出してトイレ用に使っているらしい。
そして肝心の便器も壊れかかっていてなんともばばっちい状態になっているのであった。水があるだけまだマシですか。便座に尻をつけるのも躊躇いますが、便所に関しては本当「郷に入れば郷に従え」なので文句つけちゃいけません。
マラスの村から少し離れた所に、ひたすら広大な塩田地帯が突如として現れる。ここはアンデスの高原地帯の標高3200メートル地帯、残雪と見間違えそうになるが、塩田らしいですよこれ。
塩田は急峻な山の斜面に棚田のような形で段々になっていて、塩で満たされたプールが約5000枚密集しているというのだから、見た目にも随分凄まじい様相となる。圧巻ですねこれ…
この塩田は遺跡でも何でもなくインカ帝国時代から続いてきた現役の塩田で、どうやら数千万年単位での地殻変動でかつて海だった土地の塩分が現在も染み出てきて、この3000メートル級の高地で塩水が延々と流れ出るという不思議な場所になっているとか。
塩田で塩が採れるのも時期があって、我々が行ったのはまだ9月だったので白い塩田の様子が眺められたが、10月頃から雨季となり、雨季が本番を迎えると塩田が茶色く濁りだし見た目にも微妙になるそうだ。
我々はそんなマラス塩田を反対側の山の上から見物したが、あの下の塩田まで降りて見学する事も可能だ。(入場料2ソル)せっかくだから見学して塩を土産物に買って帰ろうかとも思ったが、予定時間に押されて断念。上から見てるだけだったが、なかなかの絶景でした。